NPO法人 天覧山・多峯主山の自然を守る会 会報No.50  2007.10.1



もくじ
●名栗川の川歩き/大石 章
●天覧山谷津の里づくり/浅野正敏
●天多を食べよう 秋〜冬編/黒住浩次
●編集後記

 

●名栗川の川歩き

てんたの会では、毎年8月のふる里散歩では、暑さを避け、岩根橋から吾妻峡まで名栗川を歩きながら自然観察会を行っています。

外は炎天下でも川の中は涼しい別世界。網、水中メガネ、観察用のプラスティックケースなどを持って出かけましょう。探す場所は、川淵の草むらや石の下など。草むらには魚やエビが隠れていますので、網を下流に構えて、足で網に追い込むようにしてすくい上げます。石の下には水生昆虫などがいますので、フォローのためにやはり下流に網を構え、石をひっくり返して生き物を探します。

丹念に探せば、カジカ、ギバチ(ナマズの仲間)、シマドジョウ、アブラハヤ、ジュズカケハゼ、カマツカといったあまり見かけない魚のほか、たくさんのヌカエビやサワガニ、ヒラタカゲロウ、ヘビトンボ、ザザムシなどの水生昆虫などを間近に見ることができます。これらの多くは埼玉県の丘陵部・平野部では見られなくなった県の絶滅危惧種でもあります。昔と比べれば汚れたとはいえ、きれいな川でないと見られない水生生物がまだ生息していることが分かります。

つい夢中になって痛めた腰に手を当てて顔を上げると、川岸には湿った場所に生える珍しいイワタバコのほか、ウバユリ、キツネノカミソリが花を咲かせ、川以外では見ることの少ないミヤマカワトンボ、キセキレイ、カワセミなどが飛び交います。また、川をあがり、ふとエノキの大木を見上げると、宝石のように輝くタマムシや国蝶オオムラサキに出会えるのもこの時期ならではのこと。
まさに別世界、自然豊かな飯能に暮らしている幸せを実感する瞬間だったりします。

河原でバーベキューしているだけではアウトドアとは言えませんよね。子どもたちと一緒に生き物ウォッチングでもしてみませんか。なお、いくつかの魚類は漁業権が設定されていますので、観察したら逃がしましょう。

文・絵 自然観察指導員 大石 章

 

●天覧山谷津の里づくり

NPO法人 天覧山・多峯主山の自然を守る会(てんたの会)
文・絵 代表理事 浅野正敏

団地開発予定地であった天覧山・多峯主山一帯は、保全に向けて動き出しています。てんたの会が発足し、ねばり強く開発変更を訴え続けて10年目の2005年に開発中止が決まりましたが、私たちは引き続き西武鉄道に対して、時には市と一緒に、今後の自然環境保全について交渉してきました。

その後、市が天覧入りの谷津田など約6000�を借り受け、市民、行政、事業者が共に環境保全を考える場である「はんのう市民環境会議(以後、環境会議という)」が管理・運営するという方針が決まりました。環境会議においては、当会でまとめた保全案を提示し、繰り返し検討を重ねて来ました。谷津田の乾燥化を止めるため、田んぼを復元し、ホタル、トンボ、カエルなど多様な動植物が今後も生息できる環境に整備していこうという意見が出ています。しかし残念なことに、環境会議は開かれた場ではありますが、会議に参加するのは限られた人になってしまっているのが現状です。

手入れを始めることをより多くの市民の方に知ってもらい、保全活動に参加してもらう必要があります。環境会議では、そのためのプロジェクトを立ち上げました。名称は「天覧山谷津の里づくりプロジェクト」。飯能青年会議所、飯能商工会議所、青少年育成飯能市民会議、駿河台大学、西川木楽会、飯能信用金庫、西武鉄道、本郷自治会、等々25の関係団体、個人に声を掛けています。従来の当て職、お付き合いでの参加とは縁を切り、今回は第4次総合振興計画の中で謳われている市民参画(参加ではない)と協働という根気のいる取り組みに挑戦します。具体的には、元々あった水路や畦道を復活したり、田んぼを再生し無農薬の米づくりを楽しんだり、湧水を暖める溜池を造ったりして、昭和30年代の里山の原風景に近づける手入れをゆっくりと進めてゆこうと考えています。

多様な生き物が生息可能な自然環境を整えていくことにより、子どもたちの自然学習の場となり、市民の憩いの場ともなるはずです。そのために汗を流す作業そのものもここち良いものです。

これらの作業に当たって、環境を破壊することのないよう5つの約束事をまとめました。

1.自然環境の保全に努めます。
2.農林業体験や環境学習の場として活用し、健全な里地・里山づくりを進めます。
3.清らかな沢を大切に守ります。
4.野生生物を保護し、地域固有の生物が生息しやすい環境づくりに努めます。
5.野生生物を持ち出さず、外来生物の持込みを禁止します。
 
初夏の夜にはホタルが群舞する姿が次の世代にも観られるよう願って止みません。

 

●天多を食べよう〜秋・冬編〜

人々の暮らしが、自然と密接な関わりを持っていた頃、里山は大切な糧を得る場でもありました。
農地としての利用だけでなく、狩猟、採集による食料の確保が日常的に行われる場所でした。春の山菜。百合根や自然薯、木苺、アケビ。栗や椎の実。きのこ類。沢蟹、ドジョウ、タニシなど水生生物。ウサギ、イノシシ、タヌキ、シカなどの哺乳類。イナゴや蜂の子、ヘビなども獲って食べていたんでしょうね。

7年前、山の調査で天覧山・多峯主山周辺に毎日のように入り浸っていた頃の話。相方と二人で道無き山の中に入り込んでいった時。目の前のナラの倒木にヒラタケが大きな株を作っていました。早速持っていた袋にヒラタケを収め、相方にも勧めたのですが、なにやら怪訝そうな顔。結局彼女は持ち帰ろうとはしませんでした。いやーその晩のヒラタケのバター炒めと、味噌汁のうまかったこと。ヒラタケとタマゴタケだけは自信があるので、毎年おいしい思いをしていますが、確信の無いキノコには、彼女のように手を出さないことが賢明です。

これからの季節、天多周辺ではムカゴもあちこちで見られます。自然薯(ヤマノイモ)の珠芽と呼ばれる部分で、5ミリから20ミリぐらいの丸い実が葉の付け根についています。散歩のときや、山歩きの際に見つけたら採り集
めておいて、ご飯を炊く時に、一緒に炊き込んだり、天ぷらにして軽く塩をすると、独特の香りを楽しむことができます。密閉して冷蔵庫に入れておけばかなり長いこと保存することができるのでお勧めです。

自然との付き合いが希薄になって、里山が荒れて来始めました。人々の暮らし、衣食住すべてに於いて、山と町をつなぐことができて、初めて里山が守れるのではないでしょうか。

文・絵  埼玉県生態系保護協会飯能名栗支部長 黒住浩次

 

●編集後記

心肺機能や足腰を鍛えるには、山地を走るのが効果的。そして、なにより、楽しい。というわけで、天覧山・多峯主山の山道を走っています。

お勧めのコースは、天覧山山頂と多峯主山山頂を往復するコース。往復なので、道に迷うことがないし、そこそこの坂を登るので、楽しいですよ。もう少し距離を伸ばしたいのなら、これに、見返り坂を加えて、天覧入りから天覧山を登るといいでしょう。遅い人でも、2時間もあれば、走れます。

里山では、走って登れないほどの急坂はないし、道も整備されているところが多いので、トレイルランには、最適な環境なのです。慣れないうちは、歩いてもかまわないので、焦らず、続けましょう。そのうち、病みつきになりますよ。 (ま)