やませみ32号
目次
1.「天覧山・多峯主山自然環境調査報告書」が完成しました 浅野代表
2天覧入りの移入種問題を考える  NACS-J自然観察指導員  対馬良一
 

1.「天覧山・多峯主山自然環境調査報告書」が完成しました

  去る一月三一日に県庁に赴き、みどり自然課、環境推進課、飯能・名栗選出の中村興夫県議に、翌二月一日には、飯能市長と西武鉄道不動産部計画課を訪れ「天覧山・多峯主山自然環境調査報告書(以下報告書という)」を各位に直接お届けして来ました。
■みどり自然課へ渡した際、今回の調査地に対する「飯能県民休養地構想」については予算が付かず、隣接する開発予定地も進展がない事が分かりました。この状況を当会はプラスと捉え、保全のための市民案を作成し、多くの市民のコンセンサスを得る機会と捉えている旨を伝えました。
■環境推進課では武蔵丘分譲地の開発申請にふれ、今後手続きを進める際には申請時の開発要綱ではなく、現行の環境評価条例に基づくものとの同意がされている事を確認しました。
■中村県議は、報告書に対し、これからは時代の要請であるとし、自然環境の保全に力を入れてゆくとの表明をされました。
■沢辺市長は、報告書が市民のボランティアによってまとめられた事に敬意を表され「政治的な問題を含んだ地域だが、調査データにみられるように身近な自然の宝庫なので、子どもたちの環境学習の場としての利用が考えられる」との話も伺いました。また前教育長であった須藤助役からも、ドイツの環境学習の実践についての示唆も戴きました。
■西武鉄道との話の中では、団地開発にとらわれず、自然環境を残し活かしてゆくという考えは、鉄道利用率アップのため、有益な提案の一つであるとの談話もありました。
  調査委員会の強力なリーダーシップと協力いただいた全ての方々のご尽力によってまとまった報告書が、お届けした各位から一様に高い評価を受けた事から、天覧山・多峯主山一帯の保全に対して強い礎を築いたと実感致しました。
    (守る会 代表  浅野正敏)
  去る一月三一日に県庁に赴き、みどり自然課、環境推進課、飯能・名栗選出の中村興夫県議に、翌二月一日には、飯能市長と西武鉄道不動産部計画課を訪れ「天覧山・多峯主山自然環境調査報告書(以下報告書という)」を各位に直接お届けして来ました。
■みどり自然課へ渡した際、今回の調査地に対する「飯能県民休養地構想」については予算が付かず、隣接する開発予定地も進展がない事が分かりました。この状況を当会はプラスと捉え、保全のための市民案を作成し、多くの市民のコンセンサスを得る機会と捉えている旨を伝えました。
■環境推進課では武蔵丘分譲地の開発申請にふれ、今後手続きを進める際には申請時の開発要綱ではなく、現行の環境評価条例に基づくものとの同意がされている事を確認しました。
■中村県議は、報告書に対し、これからは時代の要請であるとし、自然環境の保全に力を入れてゆくとの表明をされました。
■沢辺市長は、報告書が市民のボランティアによってまとめられた事に敬意を表され「政治的な問題を含んだ地域だが、調査データにみられるように身近な自然の宝庫なので、子どもたちの環境学習の場としての利用が考えられる」との話も伺いました。また前教育長であった須藤助役からも、ドイツの環境学習の実践についての示唆も戴きました。
■西武鉄道との話の中では、団地開発にとらわれず、自然環境を残し活かしてゆくという考えは、鉄道利用率アップのため、有益な提案の一つであるとの談話もありました。
  調査委員会の強力なリーダーシップと協力いただいた全ての方々のご尽力によってまとまった報告書が、お届けした各位から一様に高い評価を受けた事から、天覧山・多峯主山一帯の保全に対して強い礎を築いたと実感致しました。

    (守る会 代表  浅野正敏)

貴重な自然がいっぱい!
里山の自然を再確認出来る一冊です。
 
 すでに、新聞・NHKテレビなどでご存知の方も多いと思いますが、約1年半にわたった調査の成果を「天覧山・多峯主山自然環境調査報告書」としてまとめることが出来ました。
  この報告書には、調査を始めるまでの経過や、動植物各分野での調査成果が詳しく述べられています。もとより自然に関する情報は、地域の自然を保全していく立場にある市民一人一人が共有してこそ本当の価値が生まれます。そこで、この調査の成果を広く市民の皆様に知っていただき、天覧山・多峯主山の自然を理解し、保全していくための資料としてご活用していただこうと、販売もしています。(一冊一五〇〇円。CD-ROM版 三〇〇〇円。)市内宮脇書店・Cafe裏でも発売中

報告書のお問い合わせ
◎ホームページでも紹介しています。
左記のアドレスへアクセスをどうぞ。URL=http://tenranzan.room.ne.jp   e-mail=tenranzan@room.ne.jp
  また、飯能市内はもとより、隣接する入間市、狭山市、日高市の各小中学校や図書館、博物館等にも地域学習や環境学習の基礎資料として、寄贈させていただきました
 
 

2.天覧入りの移入種問題を考える

当会では、去る一月三〇日に多峯主山・雨乞いの池において、繁茂している外来種の水草「オオカナダモ」の
除去作業を、飯能市商工観光課の職員の方とともに行ないました。除去理由は、本来この池にはなかった水草の繁茂により、
この池を利用する希少両棲類の産卵への影響が懸念された為です。二月になると産卵への準備行動が始まる為、
その作業時期については慎重な検討がおこなわれました。
この山の移入種のかかえる、さまざまな問題についてNACS‐J(日本自然保護協会)自然観察指導員の
対馬良一さんにお聞きしました。

@持ち込まれた移入種とは……

  トンボ愛好家によって天覧入りの湿地に三年にわたって一〇ヶ所の池が掘られ、ルリボシヤンマのヤゴを始めヤゴの餌としてメダカ、タイリクバラタナゴ等の小魚の移入及び一二種類の水草が移植されていることが昨年一〇月、明らかになった。ヤゴは町田市穴川で採集したもの、水草は市販のオオカナダモ、オオフサモなどである。
  その目的はトンボの成育に好適な環境をつくることであるが、他所から生物を持ち込むということは、天覧山・多峯主山一帯の自然を保全していく上で、看過できない行為である。

A移入種と生物多様性

  近年、「自然を見る物指し」として「生物の多様性」という尺度が用いられるようになってきた。かつては人の手が入っていない原生自然ほど守られるべきで、里山のような二次的な自然は価値が低いと見なされてきた。しかし、固有の生物種がどれだけ数多く生息しているかという尺度(「生物多様性」)から見ると、二次的な自然である里山が実に豊かな生物多様性を有しているということが明らかになってきた。私達は「里山の」自然の保全を考える時、いかにして生物多様性を守っていくかということを考えなければならないと思う。
  生物多様性は、次の4つのレベルに分けて考えられている。@広い地域のエコシステム A生物群集・生態系 B種・個体群 C種内の遺伝子の、多様性である。これらの4つのレベルは相互に結びついており、どれか一つのレベルの低下は他のレベルの多様性に影響を与えることになる。そのためにはこれら4つの多様性すべてを守る必要がある。
  里山のような人間の活動の影響を受けやすい自然の保護においては、Aの生物群集・生態系の多様性の保護が重要になってくる。生物群集からある生物を取り除いたり、外から付け加えることは群集全体にきわめて大きな影響を及ぼすことが知られている。セイタカアワダチソウ、ブラックバスなどの外来生物が侵入先に天敵や競争種がいない場合に大発生し、地域の生態系を破壊する例などは良く知られている。

B問題の多い造成池

  今回、造成池に持ち込まれた水草の中に南アメリカ原産のオオフサモがある。この種は繁殖力の極めて強い水草で、いくつかの池では既に水面を覆い尽くして周囲の湿地に侵出していることが明らかになった。これによって生態的地位に類似性のある他の小型の抽水・浮葉植物と競合し、駆逐していくことが予想されたため除去作業を行った。その結果、オオフサモの除去が当初予想していたものより大変で、今後も継続的にしかも多大な労力を必要とするものであることが分かった。しかも今のところ、それで完全に排除できる見通しがつかめていない。
  次にヤゴの放虫を考えてみる。ルリボシヤンマはもともと天覧山・多峯主山地域に生息しているトンボである。では、同じ種であっても他所のヤゴを持ち込むことに問題はないのであろうか。最近の研究では分類学上区別されていなくとも、遺伝子レベルでは異なる種がかなり存在していることが明らかになっている。かつては身近にいたメダカも生息地によって遺伝子型が異なり、日本には一〇以上の地方型があることが明らかになっている。ゲンジボタルでは昔から東日本と西日本で発光パターンが異なることが知られているなど、たとえ同種といえども人間の手によって他所から生物を持ち込むことは、その生物がその地域で歩んできた進化の歴史の記録である遺伝子の特性を、交雑によって奪うことにつながる。 また、トンボは移動能力が高いから、同種のトンボが地域別に遺伝的に分化している可能性が低いことを理由にトンボの移入を積極的に推し進めようとする考えがある。むしろ移動能力の高さゆえに、トンボの生息環境を整えることによって誘致を図ることが賢明であると考える。
  図らずも今回のできごとは私達に多くのことを教えてくれた。オオフサモは移入種の中でも顕著な有害性を示す「外来侵入種」の危険性を。そして「外来侵入種は野生化して直ちに有害な性質を示すわけではなく、気がついたときには対策が手遅れになるほど、個体数を増加させていることが多い。」(「移入・外来・侵入種」より)ことを実感させてくれた。
  また、ヤゴの放虫はいままで「遺伝子レベルの多様性の保全」に無自覚であったことを警告してくれた。メダカやホタルの放虫は水辺環境の復元のシンボルとして、地域起こしの中心的なテーマとして、さらには環境教育の一環として行われている。
  天覧入りの「池」はあらためて「里山の自然の保全」とはいかにあるべきかをわれわれに問うているのである。

    NACS-J自然観察指導員   対馬良一