東谷津レポート その60

2009.11.18() am10:30 山梨 晴れ     

 

谷を通る風は時折冷たく感じ、木々の秋色に染まった葉をハラハラと落としはじめた。谷津は晩秋の気配だ。この時期になると開花している花はもうほとんど無い、昆虫達もすっかり見えなくなってしまった。だが、そんな中にも夏のように騒がしい一時をみることがある。陽射しが当たり、花が咲いている場所だ。

ヤツデの花は今が盛り、たくさんの昆虫達が訪れてせっせと冬越しのための栄養を摂っている。なんと平和な風景だろう。と、思いきや。ボール状に咲いた花の中に異様なものが見えた。カマキリの目玉だ。じっとして動かない、まるで花の一部分ようで虫達も気付かないのか、せっせと花粉やら蜜やらをなめている。

やがてカマキリは狩りを始めた。近くに来た獲物に狙いを付ける。鋭く磨いたカマを顔の下にかまえ、獲物までの距離を計りながら、長い首から上だけをスーッと音も無く近づける、やいなや目にも止まらない早さでカマが振り下ろされた。フタホシヒラタアブが射程距離に入ってしまったのだ。

里地で秋最後に咲くと言われているリンドウが青紫色の花を咲かせた。ここ東谷津では、ただ1株だけ毎年花を付ける。リンドウは、陽がさすと花を開き、陽がかげるとはなを閉じる。これを繰り返して何日か咲き続け、やがてしぼんだまま開かなくなるころ谷津は冷え込みが強くなり冬枯れ色に変わって行く。

頭上では、クサギの果実が紫紺色に熟し、真紅のガクと見事な色合いをみせていた。
 


ヤツデの花に来ていた虫達。この時期花が少ないせいかすごいムシ密度だ。ルリチュウレンジ、ハナアブ2種、ギンバエが写っている。他にフタホシヒラタアブ、ツマグロキンバエ、ニホンミツバチ、ハナバチなどが来ていた。
 


花の中に怪しい物体が何かを伺っている。カマキリ、まるで花の一部のようだ。
 


カマを顔の下にかまえ、狙いを付けた獲物にスウーっと近付きカマの射程に入れる。
 


カマの射程に入ると間髪入れず振り下ろす。躊躇はしない。(だがこの一振りは失敗してしまった)
 


ハナアブがやられ、頭部からあっと言う間に食べられてしまった。
 


陽射しの中でリンドウが花開く。ここにも小さなハチの1種が来ていた。
 


クサギの果実:見事な色合いで実を付ける。果実は熟すにつれ真紅のガクを開いて行く。写真ではその様子が見られる。(花はレポート-56参照)

 

東谷津レポート その59

2009.10.31() am10:00 山梨 晴れ     

 

今日は、東谷津ほとけどじょうの里で一日過ごすことになっている。

前半は定例となっているエコツアー、「谷津田の水辺つくりツアー」で一般応募の人たちでの体験ツアーの受入れだ。後半は、この地をてんたの会が買い取ることが出来たことへの感謝の集いなのだ。

一企業が大部分を持っていた一画に、やっと見つけた民間の休耕田、借受けて湿地環境の保全整備を始めたのが11年ほど前、その後、地主さんから「永久にこの地を自然豊かな里山環境として保全して欲しい」と土地譲渡のお話を頂き、2年前に「てんた里山基金」を設立、買い採りに向けたナショナル・トラスト運動を開始、広く一般からの寄付により、今年10月に買い取ることが出来た。

農地を市民団体が買い取ることは県下初(全国初かも)とのことで、今後「エコツアーを通じた都市住民との交流」「多様な生物の生息環境とその調査研究対象地としての保持」「子ども達の環境学習の場所としての活用」を主目的として里山環境を末永く維持して行く、その過程で、この地からいろいろな情報発信ができればと考えている。

そう、この事実(農地を市民団体が買い取る)が、情報発信の第一報のように。
 


朝の準備:澄み切った秋空にティピー(ネイティブアメリカンの移動住居)から煙が立ち上り一日の始まりだ。
 


木材(間伐材)運びや水路整備で一汗かいた後の食事は格別だ。ムカゴご飯と豚汁で至福の時。
 


昼休みは青空教室。7月から初めたニホンミツバチによる養蜂について、ミツバチの興味あるお話が聞けました。
 


祝う会でのミニコンサート、「さあ盛り上がろうぜ!!」
 


記念植樹:山側にはヤマグリ、水辺にはハンノキを植樹。それぞれ、ヤマグリはミツバチの花粉や蜜集めに、ハンノキは県蝶のミドリシジミの繁殖にと生態系の役割を期待して。
 


皆、思い思いの場所で、買取りまでの思い出話やら将来設計やらで時を過ごす。
 

 

東谷津レポート その58

2009.10.19() pm3:00 山梨 晴れ     

 

<冬の準備、ナナホシテントウの最後の変態>

谷津からの帰り道、萩の葉の上でナナホシテントウの蛹をみつけた。羽化したヤツもいるぞ。

春、カラスノエンドウの葉先きに現れ、素早く歩き回ってアブラムシをたらふく食べて(レポート-43参照)何代かの世代を繰り返して生き長らえ、今年最後の世代となるのであろう。テントウムシの仲間は成虫で集団をつくって越冬する。それに向けての変態であろうが、食肉性のこのナナホシテントウは幼虫も成虫もアブラムシを食べて成長するのだが、今はどこにもアブラムシがいないことを知っているのだろうか、羽化して成虫になってもすぐに動き出さずじっとしている。あのナナホシテントウが弱々しくみえてくる。このまま何も食べずに仲間のところに行くのだろう
か、枯草の根本や石垣の中などでひもじい冬越しになるのだろう。

秋の夕暮れは早い、もう少し観ていたいのだがまた明日来ることにして帰路を急いだ。

*写真は1個体での羽化の過程ではなく、数個体のものを時程で表したもの。
 


ナナホシテントウの蛹:大胆にも葉上で蛹化していた。お尻側(上側)で体を固定している。
 


羽化が近ずくと蛹なのに動く。固定された尻を起点に頭側を持ち上げる。
 


最大にのけぞった状態。これを数秒に1度繰り返し、やがて静かになる。この運動?の翌日に羽化しているのを3頭で確認した。

 


ナナホシテントウの羽化直後:残念ながら羽化の瞬間は観られなかった。チョウやトンボとちがい、蛹からは短時間で抜け出るようだ。蛹から抜け出た時は、シンボルマークの七つ星はまだない。
 


ナナホシテントウの時間調整:羽化を終えると少し移動し、後翅をのばし固まるのを待つ。七つ星もうっすら見えてきた。
 


後翅もだいぶ固まってきて前翅の下にたたみ込もうとしている。七つ星も見えてきた。
 


前翅の星のまわりも色づき、立派な成虫になった。秋は餌のアブラムシが少ないせいかすぐには動き廻らない。
 

 

東谷津レポート その57

2009.10.3() am10:30 山梨 小雨     

 

久し振りの谷津である。朝方はよい天気だったのに谷津につくと雨が降り出した。傘をさすほどでもないが、雨模様の観察になってしまった。これもよいではないかと慰めながら・・・。

谷津はもう秋の気配を感じる。ナンブアザミが高く背を伸ばして花を咲かせ、カヤネズミが棲む萱場のススキの穂が陽を受け山陰を背景に輝いている。アサギマダラがすーうっと横切った。まだ夏の風が残っているのだろう。

谷津の昆虫達は、早々と冬の準備を始めた者と、まだ夏の余韻を楽しんでいる者それぞれだ。クロコノマチョウは成虫で越冬するためか、早々と蛹から成虫に変態して蛹の抜殻を残し、ジャコウアゲハは蛹で越冬するために、食草のウマノスズクサの葉を一心に食べている。カナヘビの幼体は冬眠のためにたくさん食べようと、餌探しを始める前に石の上で体を暖めている。
 


クロコノマチョウの蛹の抜殻:幼虫は食草のヨシの葉の食痕でみつけるとが出来るが、蛹はいくら探してもみつからなかった。チョウ類の幼虫は蛹化するとき大きく移動するものが多いと諦めていたが、なんとすぐ近くで蛹になっていたのだ。茶色に変色していたので発見できた。(幼虫と成体はレポート-55参照)
 


ジャコウアゲハの幼虫:食草のウマノスズクサが意外な所に(国道脇の植え込み)あるよと友人に紹介された。早速、行ってみるとジャコウアゲハが先にみつけて産卵したようだ。近くにこの食草が無いためか、多くの幼虫が鈴なりで、不用意にも触れてしまった。すると、怒ったぞとばかりに、オレンジ色の臭角をにゅーっと出して嚇してきた。
 


カナヘビの幼体:卵から孵化して間もないのだろう。体長3センチほどの幼体が石の上で体を暖めていた。
 


ムラサキシジミ:なんと地味なチョウ、蝶は派手なイメージを人に与えているのだから、もう少し何とかならなかったのか、「ムラサキの名に恥じているぞ!!」
 


ムラサキシジミ:しばらく観ていると、少し翅を開いた。ウッ、青く鱗粉が光った。翅が満開になると見事な青紫が現れた。やはりチョウであった。
 


ツマグロキンバエ:像の鼻のような長い口吻をのばし、花粉を食べている。アブの一種と思い、図鑑で探していたがみつからない。複眼の模様からハエの一種だとわかったのに時間がかかってしまったが、まだ観られるそ。(体長8ミリほど)
 


アカハネナガウンカ:クロコノマチョウの蛹の抜殻のすぐ近くにいた。アンバランスな大きな翅と赤い小さな体(4ミリほど)、大きな目、このユニークさに一度は観てみたい、撮りたいと思っていた奴だ。

 

東谷津レポート その56

2009.9.5() am11:00 山梨 晴     

 

残暑の中、谷津の試作田を見て茫然とした。猪にやられたとの情報で、ついに来たかと状況を見に来たのだ。何の対策も講じていなかったので、いつかやられるとは思っていたが、こんなに早くこんなに凄まじいとは・・・。

ため池の水量の調整、水路の補修、田んぼの水量調整、畦の草刈りなど谷津に来る毎に手入れをして来たことを考えると残念な思いだ。収穫前の黄金色に輝く稲穂の写真ぐらいは撮れると思っていたのに。

『今年は、試行年、やられても仕方ないよね。』なんて皆で"妙な合意、納得"のうえで始めたこの試行ではあるが、いざやられるとむなしく思えるのは私だけだろうか・・・.

<クサギ>真夏、他にあまり花を見ないこの時期に花をつける。この木、葉をもむといやな臭いがする。普段あまり気にもせず通り過ぎていたが、アゲハなどの大型のチョウが吸蜜しているので、残り咲きしていた花に近づいてみた。花は、柄を大きく伸ばしガクから飛び出して咲き、葉とは大きく違いよい臭いを漂わす。なるほど、チョウが集まるはずだ。花は受粉すると長い柄から落ち、やがてガクの中で結実し、ガクを開いて青白い果実を見せる。果実は、晩秋に熟して紫色になり、反り返った深紅のガクとの見事な色合いをみせる。これを観るのも晩秋の楽しみのひとつとしよう。
 


これが猪害だ。まだ実っていない株だけ残し、まるでコンバインで刈り取ったようだ。
 


最後の上陸者:だいぶ緑色がかってきたシュレーゲルアオガエルの幼体。ため池での今年の最後の1匹になってしまったやつだ。仲間はとっくに上陸して行ったのにまだいたのだ。トレイに入れても何があったのかきょとんとしている。田んぼは猪が大騒ぎしているのに、大丈夫かなこいつ。
 


クサギ:落葉の低木、真夏に咲く数少ない花のひとつ。花びらから長く飛び出しているのは雄しべと雌しべ。名は葉をもむと嫌な臭いがするから。
 


クサギの果実:受粉を終え、花柄を落とし結実したてのもの。青白い果実も熟すと紫色になり、ガクとの色合いが見事になる。
 


スケバハゴロモ:近種のベッコウハゴロモ(レポート-53参照)の羽根の輪郭だけのこして透明にした羽根を持ち、向こう側が透けて見えるところからスケバハゴロモ、なんとも愛らしい種の主張だ。
 


アミガサハゴロモ:こちらは全く違う羽根を持っている。ベッコウ、スケバ、アミガサ3種とも同形で、大きさも同じ(10ミリほど)だが、こちらは羽根をアミガサ模様で違いを主張している。
 


セスジスズメ(蛾)の幼虫:少年の頃、里地のサトイモ畑でよく見掛け、そのたびにギョっとしたのを思い出す。毛の無いイモムシ型のこの手のものは今でも苦手だ。最近なかなか見かけない、これは土にもぐって蛹になる場所を探すために葉から降りて来たところだ。写真右側が頭部、腹部後端にはスズメガ科の幼虫の特徴である尾(尾角)をもつ。

 

東谷津レポート その55

2009.8.23() am10:30 山梨 晴     

 

不安定な今年の夏の天候を、土のなかや草むらのなかで、新しい生命は察知していたのだろう。秋の草花や昆虫達が早くも動きだした。

草原ではキツネノマゴ、ツリガネニンジン、ツルボ、ナンバンギセル、へクソカズラ、マツカゼソウ、ムカゴニンジン、ワレモコウなどなどが、夏草の茂った中から這い出して咲き始め、ジガバチは卵から孵化した幼虫が食べる離乳食となるイモムシ類を狩るのに忙しく飛び廻る。山道ではハイイロチョッキリが、まだ小さめなドングリを葉ごと無数に切り落して、まるで大型の台風が通り過ぎた後のようだ。
 
里山は、ざわざわし始めたぞ!!
 


ツリガネニンジン:夏の終わりをつげるかのように、草原から背をのばして咲き始める。15ミリほどの釣鐘型の花の下にでているのは雌しべだ。
 


ツルボ:田んぼの畦道などの陽当たりのよい草原に生える多年草。花茎は葉をつけず、他の野草の間からスーっとのびて顔をだし、小さな花を無数に咲かす。
 


ナンバンギセル:長い柄とその先につく花の形がキセルに似ているところからこの名が付いたというが、別名に、オモイグサ「道のべの尾花(ススキ)が下の思草 今さらになど もどか思はむ」と万葉集に歌われたこの思草が古い名前。この歌の通りススキの根本を探してみよう。
 


マツカゼソウ:松風草と書くミカン科の多年草。葉をもむと柑橘系の香りがする。山地の林縁に生えるが、背が低く、花が小さい(5ミリほど)ので見過ごしてしまいそうだ。
 


ワレモコウ:言わすと知れた秋の代表的な野草。緑一色の草原で暗赤紫色で目立つので「我紅」と主張しているのかとずっと思い込んでいたが、「吾木香」だそうだ。香りはあまりしないのだが・・・こちらで主張していたとはね。
 


ナシイラガの幼虫:蛾の1種(イラガ科)ナシイラガの幼虫だ。ハイイロチョッキリがお仕事をしていないかとコナラの枝先に手を伸ばした葉上にいたもの。イラガ科の幼虫は、毒のある突起をもち、下手に触ったら大変な思い(激痛)をさせられるらしい、気付いてホッとした。復脚が退化し、ナメクジのように這って進む。青いピンストライプが見事にデザインされている。
 


ジガバチ:成虫は花の蜜などを食べる食植性。雌は子供のために土中に巣穴を掘り、シャクトリ虫やヨトウ虫を狩る。毒針で獲物を昏睡させ、巣穴に引き込み卵を産みつけ、漆喰で穴をふさいで立ち去る。幼虫は卵から孵化すると、昏睡状態で動けない獲物に喰らいついて成長するという食肉性だ。
 


クロコノマチョウ:里山の雑木林などに棲み、樹液や果実などによくやってくる。ジャノメチョウの仲間だというが、蛇の目をつけていない・・・ん、よく観ると翅の後ろ端にある小さな白い点がいくつか確認できた。これがジャノメチョウの仲間の由縁と思う。
 


クロコノマチョウの幼虫:食草の1つであるヨシで見つけた。色や体形は食草に擬態しているのだろうか、ヨシの葉裏と同色なのでよく見ないとわからない。
 


これはクロコノマチョウ幼虫の拡大頭部。終齢幼虫であろうか、体長5センチほどある。黒っぽい顔面に、毛まで生やした角状の突起は、擬態を見破って近付いた捕食者を威嚇するのであろう。

 

東谷津レポート その54

2009.8.12() am11:00 山梨 晴     

 

夏本番、やっと夏らしさを取り戻した谷津はギラギラと照りつける陽光と草いきれでムッとしている。以外にもこの時期、野草は秋の花へと移行途上で、花を付けているのはめっぽう少なくなってくる。同時に昆虫達も鳴りを潜め、めっきり見かけなくなる。

元気なのはこのギラギラ太陽が大好きな、セミ(昨日、我家の近くでクマゼミの声を聞いた)とトンボぐらいであろう。ならば、今まで撮りためて紹介していなかったユニークな昆虫達を特集しよう。(注:発生時期はまちまちである)
 


アシアカカスミカメ:カメムシの一種、あのいやな臭いを出すカメムシ(通称ワクサ、わあーくっさ!!)の仲間だが、このように美しく着飾った伊達男が多いのだ。
 


ヒメホシカメムシ:これもカメムシの一種、よく似ているオオホシカメムシかもしれない。背中の一対の黒点は目玉を擬態し、捕食者をおどかしているのだろうか。大事な模様を後ろ足で磨いている。
 


ナガメの幼虫:口ひげを生やした人の顔のような模様を見せるのは、カメムシの一種ナガメの幼虫だ。カメムシの仲間は幼虫もかなりユニークなものが多い。カメムシの幼虫は数回の脱皮を切り返し模様も変えて行くが、この模様が現れるのは何齢幼虫だろうか。
 


ラミーカミキリ:まるで燕尾服を着て正装しているブリキの玩具のような模様のこの虫、カミキリムシの仲間だ。体長12ミリと小型だが、緑色のカラムシの葉の上で目立っている。
 


うわっなななんじゃこりゃ!! 葉の上で角(実は吸収顎)を大きくひろげ、獲物が近ずくのをじっと待っているのはツノトンボ(触覚が長いトンボそっくりの昆虫)の幼虫だ。体長15ミリはどだが、捕まったら逃げられないだろう。
 


イチモンジカメノコハムシ:透明なプラスチックのドームをかぶっているようだ。写真の下側が頭部、触覚を出している。自分の糞を身に付けている幼虫(レポート-50参照)もユニークならば、サナギもすごいぞ。
 


こちらがイチモンジカメノコハムシのサナギ(終齢幼虫かも?)上の黒い傘が自分の糞だ。棒状の糞(写真右手前の黒い棒)を幾重にも重ねている。
 


ツマキホソハマキモドキ:青緑色の地に金ラメの刺繍を施し、いかにも高価な着物を着ているのは、"夜の蛾"ならぬ昼間活動するガの仲間だ。体長10ミリほどと小さいのだが、陽光を浴びてメタリックに輝く様はミゴトだ。
 


ずんぐりむっくりで不格好なうえに、後ろ足の股はぶっとい。キアシブトコバチ、仲間は寄りがたい精悍な体形をしている者が多いハチなのだが、こちらは滑稽で愛らしいなヤツだ。
 


ネバーエンディングストーリーの龍が葉の裏で休んでいるようなの姿の主はアゲハハモドキ(蝶の一種)の幼虫、白いふわふわしたロウの分泌物を体全体に付けている。本体は茶色っぽいそうで、その方が捕食者に目立たないと思うのだが、この方がよいのだろう。

 

東谷津レポート その53

2009.7.31() am11:00 山梨 曇り     

 

このところ雨模様の日が続き、谷津田に来たのがなんだか久し振りのような気がする。東谷津からホタルの里への山道では、人ひとり出会わない。時折小鳥の声が遠くから響き渡ってくるだけで、林もすっかり静まり返っている。植林された檜林は薄暗く滑り易い、下り坂では踏み出す足を場を慎重に選んで進む。
 
今にも雨が来そうな空模様のなか、昆虫達も雨が来るのを察知してか皆葉の裏に隠れてしまった。草原も静かなものだ。ならば、しゃがみ込んで葉裏を覗いてみよう。

なんとアオバハゴロモとベッコウハゴロモが、同じ葉裏で羽化していた。こんなチャンスはめったにない、しめしめとほくそ笑みながらシャッターを切っていると、聞き覚えのある野鳥の声が谷間に響き青い閃光が走った。カワセミだ!! な,なんとため池に来ていたのだ。
 


アオバハゴロモ:近づくと横にはって隠れてしまう習性を持っている。簡単に捕まえられそうだが、手を伸ばすとパッtと飛び去る愛らしい奴だ。子供の頃、ハトポッポと呼んで遊んだことを思い出す。
 


アオバハゴロモの幼虫:白いロウ物質を分泌して、体につけている。集団でこの姿、枝まで白くした状態をよくみかける。
 


アオバハゴロモの羽化:羽化を終えた直後、その場に留まっている。横の白いのが抜けがらだ。
 


ベッコウハゴロモ:ガの一種かと思わせる姿をしている。こちらはアオバハゴロモとはちがい、いつも羽根をひろげたままだ。体長10ミリほど。
 


ベッコウハゴロモの幼虫:かなり奇妙な姿だ。尻尾の先にタンポポの綿毛がくっついたようだが、これはこの幼虫自身が分泌したロウ物質。これで近付くとパッと飛び跳ねて逃げる。
 


ベッコウハゴロモの幼虫:なんじゃこりゃ。これが後ろから見た姿。通常この状態で葉の上でぺったとしているので、捕食者は花がらにしか見えないのかもしれない。
 


アオバハゴロモとベッコウハゴロモのツーショット。これも雨のおかげかも知れない。
 


カワセミ:ため池の訪問者。カルガモが来ていることは知っていたがカワセミまで来ていたのだ。

 

東谷津レポート その52

2009.7.17() am11:00 山梨 薄曇り     

 

関東地方の梅雨が明けたと言う。酷暑が続いたが、昨晩から降り続いた雨も朝方に上がった。こんな日は昆虫観察に絶好だ。雨を避けて葉裏に隠れていたムシ達が一斉に出てくると持論を持っている私は、そそくさと谷津田に向かった。

東谷津ほとけどじょうの里に着くと、入り口の大株で立派な葉を大きくひろげたオオバギボウシの花が、私が来るのを知っていたかのようにヨツスジハナカミキリを呼び寄せて迎えてくれた。

さっそくムシ達を見てみよう。
 


ヨツスジハナカミキリ:オオバギボウシの花にもぐり込んで、花粉を無心に食べている。近付いても気づかないほどだ。
 


アカハナカミキリ:林縁の草地で普通に見られるカミキリムシ、今日はあちこちで見かけた。
 


モンシロチョウ:チダケサシの小さな花をたくさん付けた花穂を次から次へと移動しながら蜜をすっていた。
 


オオハナアブ:この大型で毛むくじゃらのアブも出始めた。こちらもチダケサシの蜜が目当てだ。
 


マメコガネ:豆類をはじめ、広範囲の葉や花を食べ荒らす害虫。明治年間にアメリカに人為的に持ち込まれ、大繁殖して農作物に大被害をあたえて
japanesebeetleとよばれてさえいる。なぜか後脚をひろげている、比較的小型で極普通に見られる。これもチダケサシの花だ、上にいるのはハナアブ。
 


セセリチョウの仲間:コチャバネセセリだろうか、アキノタムラソウの蜜を吸いに来た。アキノタムラソウは夏から秋にかけて長い間花を咲かせるので、いろんな昆虫達が訪れる。
 


ヤマトシジミ:雨上がりのせいか、葉の上で撮ってくれと言わんばかりにじっとして動かない。
 


オバボタル:まるでヘイケボタルのように見えるが、ホタルより立派な触覚を持っている。昼間活動するこのムシも発光器を持っていて、赤くぼんやりと光るらしい。
 


トホシテントウ:多くのてんとう虫の仲間はアブラムシなどを食べる食肉性だが、このトホシテントウは食植性でおもにカラスウリの葉を食べる。食の面では異端児だ。

 

東谷津レポート その51

2009.7.3() pm2:00 山梨 曇り     

 

梅雨、うっとうしい日が続く。雨天の合間に谷津田から雨乞い池まで行ってみた。
 

谷津田のため池では、アカガエルのオタマジャクシが四肢を生やして上陸を待つ個体も数少なくなった。ヒキガエルの一斉上陸とは違い、皆それぞれに成長した順に上陸して行くのだ。あとは、一足遅いシュレーゲルアオガエルのオタマジャクシの独壇場になってゆく。
 

ホタルの里の試作田は、雨で増水した水路から流れ込む水を満々と充たし、稲も順調に生育している。もう少し成長したら、稲の間に生息する水棲の生き物を観察してみたい。

山道に入ると、樹間に霧が発生して幻想的な雰囲気を漂わせいて、静寂の中で小鳥の鳴き声が妙に響き渡る。市街地から半時足らずで全くの別世界。梅雨時の山もまたよいものだ。
 


アカガエルのオタマ:四肢が生えて、水中から上陸の機会を伺っているのだろう。仲間は、ほとんどが上陸してしまい残り少なくなった。
 


いつもの山道も霧につつまれると深山幽谷の雰囲気を漂わす。
 


バイカツツジ:花が梅の花に似ているところからこの名がついたとのこと。直径2センチほどでツツジにしては小さな花だ。開花の時期も終わるころ、咲き残った一個の花が枝先についていた。
 


ネムノキ:花は枝先に穂状について咲く。ながく伸びた雄しべが目立つ。この写真はつぼみから開花の状態まで見られる。落葉の高木で、葉が夕方に閉じてしまうことからこの名がついた。合歓の木と書く。実はマメ科特有でサヤの中につける。
 


コフキゾウムシ:花の咲いたネムノキの葉の上にいた。体に白い鱗片がついているのでコフキ、それにしてもこの個体粉をつけすぎたみたい。同じマメ科のクズの葉上でよく見掛ける。
 


チダケサシ:草原から背を伸ばし咲き出した。小さな花を穂状に咲かせてよく目立っている。
 


ホタルブクロ:山際の草原に生える。名は、ぶら下がって咲く花をみたてて火垂(ほたる:提灯の古語)をあてたとか、花の中にホタルを入れて遊んだからという説があるが、一般には蛍袋と書く。花の色は白から薄紫までいろいろある。